コラム

好奇心を持って見つめれば、日常はすべて哲学になる!リベラルアーツ学群 田中一孝先生

UPDATE 2025.1.29

桜美林大学には、おもしろくて頼れる先生たちがいます!

「どんな先生がいるのか」は、大学を選ぶときにとても大切な基準のひとつ。
 
そこでビビビッ!では、桜美林大学の先生たちの実態を大解剖!
研究内容からプライベートでの素顔まで、あらゆる角度から調査してみました!
 
今回紹介するのは、リベラルアーツ学群の田中一孝先生。京都大学出身という経歴からは想像もつかない、意外な過去が明らかに…!?

目次
  • 【解剖結果】教授の解剖プロフィール!
  • 先生をあらわす3つのキーワード
  • 【解剖1】研究内容をわかりやすく教えてください!
  • 【解剖2】授業の内容を教えてください!
  • 【解剖3】先生って、どんな人?
  • 【解剖4】もっと先生を知る!マル秘エピソード
  • みなさんにひと言!

【先生の解剖プロフィール】
名前:田中一孝
学群:リベラルアーツ学群
担当科目:哲学概論、倫理学基礎文講読A、美学・芸術論、哲学の諸問題、哲学研究特論B、西洋哲学・思想史A、リベラルアーツセミナー、専攻演習I・II、数的思考と論理

【解剖結果】教授の解剖プロフィール!

先生をあらわす3つのキーワード

(1)どんな研究をしている?
古代ギリシア哲学のコスモロジー(宇宙論)
 
(2)自分をひと言で表すと?
欲望に忠実で、他人の評価を気にしない!
 
(3)先生が大切にしていることは?
好奇心を忘れないこと

【解剖1】研究内容をわかりやすく教えてください!

――先生はどんな研究をしているんですか?

  • 田中先生

    私の専門は古代ギリシア哲学なのですが、その中でも近年は「コスモロジー」、日本語で言うと「宇宙論」に興味を持って研究しています。

――「宇宙論」とは?

  • 田中先生

    簡単に言うと、この宇宙はどのようにできているかを論じるものです。古代ギリシアではすでに、宇宙の研究がかなり進んでいたんですよ。
     
    いつも同じように昇っては沈む太陽や運行する星々を見て、古代の人々は宇宙を「永遠性の象徴」として捉えていました。
     
    それに対して、人間はいつかは消えてなくなる「死すべき存在」である…というように、宇宙との対比で人間について議論したり、宇宙と人間の関係を考えたりするのも宇宙論です。
     
    うーん、うまく説明できていますかね(笑)

  • 田中先生

    それから、「西洋古典学研究の民主化」というのも最近関心があるテーマです。
     
    西洋古典を研究するには、ギリシャ語やラテン語の原典、海外の研究資料が読めないといけません。さらに、文献の拾い方や引用の仕方にも様式のようなものがあって、それを学ぶのにすごく時間がかかるんですよ。修行みたいなもんです。
     
    その過程で嫌になって研究をやめてしまう人をたくさん見てきたので、サポートできるシステムがあればいいなと思って。ほかの研究者たちと共同で、生成AIを使ったシステムを開発しました!
     
    (田中先生たちが開発した「ヒューマニテクスト」の詳細はこちら!)

【解剖2】授業の内容を教えてください!

――授業ではどんなことを?

  • 田中先生

    授業では、身近なテーマを扱っています
     
    たとえば「人はなぜ笑うのか」「芸術の価値はどのように決まるのか」「自己とは何か」。
     
    それぞれ、過去の哲学者たちがどのように考えてきたかという歴史があるのですが、教えるよりもまずは学生自身に考えてもらいたいなと思っていて。
     
    実際にお笑いのネタを作ってもらったり、思考実験なんかもよくやりますね。

――思考実験って、何ですか?

  • 田中先生

    特定の前提や条件を設定して、その条件の中で結論を出すことです。
     
    たとえば「自己とは何か」を考えるにあたって、哲学では「なぜ自分は自分でなければならないのか」というところからスタートします。
     
    厳密に考えると、私たちは原子レベルで日々刻々と変わっていますよね。一秒たりとも同じ自分であり続けることはできないはずなのに、「自分が存続していない」と考えると、気持ち悪い感じがする。
     
    そう感じてしまうのはなぜか?ということを考えるために、「記憶喪失になった自分」を想定してもらったり、「君の名は。」という思考実験をしたりします。

――君の名は…!

  • 田中先生

    つまり、朝起きたら別人に入れ替わっていて、記憶はそのままなのに、肉体や性別が違うという状態を想定してみるんですよね。
     
    あるいは、一度原子レベルでバラバラになった自分が再合成された場合、それは自分であると言えるのか?とか。これは「自己のサバイバル」といって、21世紀に入って議論が盛り上がってきたトピックなんですが、実は、伝統的なテーマでもあるんですよ。

――ちょっとむずかしくなってきました…(笑)

  • 田中先生

    ははは!ただ、むずかしい知識を教えるというよりも、「常識を問題化し、自分の考えを持つ」ということを学生にはやってもらいたくて。
     
    私たちが当たり前だと思っていることについて「本当に“常識”で済ませていいのか?」と立ち止まって、過去の哲学者の考え方を伝えたりしながら、学生自身に考えてもらう。その考え方と態度を身に着けてもらいたい。
     
    私の授業では、それをあの手この手でしつこくやっている感じですね。

【解剖3】先生って、どんな人?

――幼少期はどんな子どもだったんですか?

  • 田中先生

    うーん…。無邪気な子どもだったと思いますね。親がシングルマザーで一人の時間が長かったというのもあるのですが、なんでも好き勝手にやっていて、我慢した記憶がないです(笑)

――我慢した記憶がない!?

  • 田中先生

    はい。行きたい場所があれば遠くまで1人で行ったり、友だちと遊ぶときには「帰りたい」って言われるまで絶対に帰らない、みたいな。一人でファミレスに行って食事ができるか試したり、住んでいたマンションの植栽に隠れた蓋を開けて、基礎部分にもぐりこんだりもしてました。
     
    欲望と好奇心に忠実だったんだと思います。だから、先生にはよく怒られていました。
     
    そういえば大学院生のときに、小学校の友人と飲み会をしたんですよ。そのとき、「一孝くん、ごめんね」って言われて。
     
    「一孝くんがいつも先生に怒られているのを、かわいそうだと思いつつ見過ごしてた。一孝くんがいたから、自分たちは怒られないで済んだ」って(笑)
     
    どうやら、スケープゴートのように怒られていたらしいんですよ。

――自覚なかったんですか!?

  • 田中先生

    まったく自覚なかったです(笑)そういう人間なんですよね。叱責されても他人ごとみたいな感じで、あまり気にしていなくて。意地悪されても気づかないタイプです。

――その感じ、ちょっと羨ましいです(笑)中学・高校時代はどんな学生でしたか?

  • 田中先生

    いやあ…言っていいのか分からない話ばかりなんですけど(笑)
     
    中学校はすごく自由だったんですよ。設立2年目の学校で、校則もあってないようなものだったので、自分も含め、みんな好き勝手にやっていました。
     
    でも、高校はものすごく厳しくて。制服のホックが外れているのを3回指摘されたら反省文と親呼び出しとかね。自分が何かをすると、周りも「連帯責任」という形で締め付けられてしまうので、これはきついなと思って。学校への関心を失いました。
     
    今でも覚えているんですが、水曜日は移動教室がなかったんですよ。私は後ろの席だったので、学校に来てから授業が終わるまで、ずっと寝ていました。前の席の子も、私を隠しながら「起立、礼」とかやってくれて(笑)

――すごい話…(笑)

  • 田中先生

    昼休みもご飯を食べずに寝ていて、「一孝、帰る時間だよ」って起こされたら学校を出て、あとは毎日のようにゲーセンに行ってました。
     
    いつも夜中の3時くらいまで遊んでいたので、授業中はとても起きていられないわけです。そんな生活を3年間やりましたね。

――そんな青年が、どうして哲学の道に?

  • 田中先生

    浪人時代に太宰治やドストエフスキーといった暗い文学にハマって、思春期の鬱屈した気持ちを文学で増幅させていたんです。
     
    そんなとき、『アナバシス』という古代ギリシアの本に出会って。ペルシアに取り残されたギリシア軍の逃避行の話なんですが、そこでのギリシア人たちの議論の仕方がすごく理にかなっているなと思ったんですよね。
     
    考え方が異なる相手でも、議論の末に説得されたら、命をかけてそれに従うというか。そのあり方がシンプルで力強く感じて、古代ギリシアを学んでみようかなと。
     
    じめじめした文学に中毒して自意識を肥大化させていた私にとって、古代ギリシア人の生き方は「スッキリ爽快」な感じがしました

――「自意識の肥大化」、私も身に覚えがあります…。

  • 田中先生

    まあ、それが青春ですよね。そこで苦しむからこそ、抜け出すための思考に興味を持ったりできるので、すごくいいことだと思いますよ。
     
    他人の評価を気にしたり、「モテたい」と思ったり、それが満たされなくて悩んだり。そんな自分を俯瞰して見られるようになったら、あと一歩です。
     
    「自分は人の目ばかり気にして生きているんだ」と認めることができれば、それは素晴らしいことですよ。

【解剖4】もっと先生を知る!マル秘エピソード

――最近ハマっていることはありますか?

  • 田中先生

    そうですね…最近はポップカルチャーに興味を持ちはじめて。そうしたら、現代社会のいろんな出来事や表現が、すごく色鮮やかに見えるというか。
     
    たとえば、『ブルーピリオド』というマンガで、ホストクラブの看板に着目して絵画制作するシーンがあるんですよね。

――新宿の歌舞伎町にあるようなやつですね…!

  • 田中先生

    そうそう。こういう表現って、おそらく芸術の分野ではあまり取り上げられてこなかったし、広告作品として十分に批評されてこなかったかもな、って思うんです。でも、独特の世界観もあるし、人間の欲望を刺激する振り切った表現や、他の店と差別化するための工夫が見えたりする。
     
    たぶん、こういう看板って、宣伝と同時に「接待」を想起させているんですよね。ホストにハマることが社会的問題になっていますが、なぜハマっていくのか、少し解像度が上がるように感じます。
     
    そういう目線を持つと、youtubeとか、tiktokとか、Xとか、私にとっては不思議なことばかり起こっているように感じる。自分なりに現代の文化的事象をちゃんと考えてみたいなと思っています。もちろん、専門家からすると何を今さらって感じだとは思うんですけどね。

みなさんにひと言!

――最後に、桜美林大学が気になっている方にメッセージをお願いします!

  • 田中先生

    「好奇心を思い出してほしい」というのが一番伝えたいことですね。
     
    大学を受験するというのは、言ってしまえば用意された枠組みに入っていく過程です。
     
    「この価値観がある程度正しい」という枠組みに、自分を適応させていく。受験に限らず、就職活動だったり、選別を受けるというのはみんなそうだと思うんです。
     
    もっと言うと、子どもの頃から「親に褒められたい」と思ったり、学校の先生や部活の先輩の目を気にしたり…「他者からの評価」に自分を合わせ、最適化する訓練を日常的に積んできている。
     
    それは同時に、好奇心を捨てる訓練でもあったと思うんです。自分が本当に面白いと思うことよりも、他者の価値観を優先するということですから。
     
    でもね、哲学(philosophy)の語源は、ギリシア語で「智を愛する」、つまり「好奇心」なんですよ。
     
    どんな好奇心も、哲学や研究につながります。だから、自分の好奇心を思い出して、爆発させてほしいですね。私はそのお手伝い役です。